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2018年07月01日

認知心理学への実践:データ生成メカニズムのベイズモデリング[スライド紹介とWS感想]

 こんにちは。mutopsyです。昨日(2018年6月30日),専修大学にて,広島ベイズ塾第三回ワークショップ「心理学者のためのベイズ統計学:モデリングの実際と,モデル選択・評価」が開催されました。本ワークショップですが,告知後ほんの数日で200名以上の予約参加者が集まりまして,当日のYouTubeのライヴ配信もアクティブ人数が常に40〜60人程度となるほどの盛り上がりを見せました。会場にお越しの皆様,配信を視聴してくださった皆様,そして一緒にワークショップの運営をしてくださった皆様,本当にありがとうございました。ベイズ塾生として発表した僕にとってもただただ有益で幸せな時間でした。(他の皆様の発表もめちゃくちゃ勉強になりました!)

 午後からは,心理学の分野ごとにベイズモデリングの実践例を紹介するセッションが行われましたが,そのセッションで僕は「認知心理学への実践:データ生成メカニズムのベイズモデリング」というタイトルの発表を行いました。発表で使用したスライドの一部をSlideShareに公開しています(↓)。

 認知心理学の考え方とベイズモデリングの相性の良さについて冒頭で説明した後で,認知心理学におけるモデリングの実践例を3つ紹介し,そこから分かるベイズモデリングの利点を列挙していくという流れで発表をしました。実践例として,(1) 自由再生実験で得られる系列位置曲線の生成メカニズムをモデル化した記憶のSIMPLEモデルの紹介,(2) 心的回転に関する既存のモデルをベイズ流に拡張した事例の紹介,それから(3)心理学の概念モデルを確率モデルに翻訳し,直接的なモデル検証を試みた事例の紹介を行いました。それぞれのモデルの詳細には立ち入りませんでしたが,「ベイズモデリングを使えばこんなこともできるんだ!」という実感を少しでもお伝えできたのであれば幸いです。(なお,実践例の(2)と(3)は僕自身の未発表のアイディアとデータを含む内容でしたので,上記のスライドでは非公開にしております。)

 この発表で最も伝えたかったのは,実践例の中身ではなく,冒頭で説明した認知心理学とベイズモデリングの付き合い方に関する哲学じみた部分です。僕が本格的にベイズの勉強を始めたのは1年と数か月前ですが,ベイズを学び始めた当初はしばらくの間,僕の研究分野(認知心理学)においてベイズを用いる利点がいまいち見い出せずにおりました。ここ数年,ベイズは心理学でもずいぶん流行っているのですが,情報がかなり錯綜している印象で,ある種の「神話」じみた言説を未だに多く見かけます(「ベイズ万能論」のような風潮?)。僕自身,そうした「神話」がきっかけでベイズの扉を開くことができた訳ですが,ベイズをきちんと学ぶにつれてそういった神話に疑問を抱くようになり,どんどん幻想が崩れていくうちに,結局ベイズの何が良いのかが分からなくなってしまいました。けれど,ベイズ塾や学会・研究会・SNSを通じて出会った多くの方々とともに勉強を続け,Stanで遊び続けてきた結果,ようやく1つの答えにたどり着くことができました。それが冒頭の内容であり,この発表の芯の部分です。つまり今回の僕の発表は,ベイジアンとしての僕の(現時点での)集大成でもある訳です。これまでの学びを自分なりに整理できたという意味でも,このワークショップは僕にとって本当に意味のあるものでした。

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posted by mutopsy at 22:32 | 統計